浦和地方裁判所 昭和57年(ワ)752号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【判旨】
1 被告久保田建設が建物の建築請負等を業とする会社であること、同被告がセンターから昭和四七年一二月ころ、容量九六〇〇リットルのタンク三本を地中に埋設することを内容とするガソリン貯蔵・給油設備建設工事を請負ったこと、同四八年七月一〇日ころ、右請負契約に基づくタンクの埋設は完了していたものの、設備全体は未完成であり、タンクとガソリン注入口との間の配管も完了していなかつたことは、原告と同被告との間に争いがない。
2 (本件事故の発生)
<証拠>を総合すると、センターは、前記のとおり被告久保田建設に製作、埋設を請負わせたタンクに初めて軽油を注入するため、昭和四八年七月一〇日被告襟川に対し軽油六〇〇〇リットルの購入を申し込んだこと、これを受けた被告襟川は、軽油の元売業者である被告正田商店に、センターへの右受注にかかる軽油の納入を依頼したところ、同被告の従業員渡辺昇は、同日ころ軽油六〇〇〇リットルをタンクローリーに積載してセンターまで運搬したこと、当時は、センターのガソリン貯蔵・給油設備は未完成で、タンクの正規の給油口も完成していなかつたため、渡辺昇は、センターの指示に従つて、一本のタンク上部のマンホールから軽油の注入を開始したこと、右タンクの全体の容量は九六〇〇リットルで、その内部に中仕切が設けられて、容量三九〇〇リットルの部分と容量五七〇〇リットルの部分とに区分されており、渡辺昇が右の給油をしたのは前者の部分であつたが、同人は、センターから教えられるままに、六〇〇〇リットルの軽油全量を同部分に収容できるものと信じて給油を続けたため、同部分の容量を超えた分の軽油がタンクから溢れ出し、相当量が周囲の土中に浸透したことを認めることができ、右認定に反する<証拠>は措信しえず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
3 (タンクの毀損)
<証拠>を総合すれば、三愛石油株式会社は、センターから依頼されて、昭和五六年一〇月四日前記の中仕切を設けたタンクの周辺を掘削してその表面性状を点検したり、気密検査等を実施したこと、その結果、タンク自体からの漏油は認められなかつたもののタンクを被覆するアスファルトルーフィングの一部が、手で触れるだけで剥離する程度に溶解しており、そのまま放置すれば、タンクに部分腐蝕が生じる虞れがあって、右タンクの使用を継続することは不可能であることが判明したこと、一方、右検査の際採取した右タンク周囲の土砂を分析したところ、土砂一〇〇グラム当たり0.82ミリリットルの軽油又は成分がこれと酷似した油が含まれていることが明らかになつたことを認めることができる。
4 そこで、本件事故と右タンクの毀損との間の因果関係について検討するに、<証拠>によれば、一般論として、ガソリン貯蔵用タンクの周囲の土砂に軽油等の油分が含有されていると、それが溶剤となつて、そのタンクを被覆しているアスファルトルーフィングが溶解する可能性があること、本件事故時から前記の土砂分析時までは約八年を経ているが、地中に浸透した軽油は右のような長期間滞留することがあり得ることを認めることができるけれども、本件において認定可能なのはあくまで右の可能性の範囲にとどまり、本件全証拠によつても、これを超えて、前記のタンクの毀損が本件事故に起因するものであるとの心証に到達することはできない(右の点についてふえんするに、原告本人の供述中には、本体事故の直後ころ所轄消防署が実施した、センターのガソリン貯蔵・給油設備に対する完成検査の際、三本のタンクの周囲に設置された八か所の検知管に竹ざお(検知棒に代るもの)を挿入してみたところ、うち一か所については、挿入した竹ざおの先端に軽油及び溶けたアスファルトが付着していた旨の供述部分が存するが、仮に右供述部分の信ぴよう性を肯認し得るとすれば、本件事故→漏れた軽油の土中への浸透・滞留→右軽油(溶剤)によるアスファルトルーフィングの溶解という因果系列を肯認する根拠となり得ないではないけれども、右完成検査に立会つた栗原、堀越(この両名は消防職員)、久保田倭男、今成正市の四名は、いずれもその証人としての供述において、右原告本人の供述部分に示されるような事実はなかつた、或いは記憶がない旨述べるに止まるほか、<証拠>によれば、本件事故後、加須地区消防組合によるセンターの立入検査が、昭和四八年一二月一九日、同四九年三月一二日、同五〇年三月五日、同五一年三月八日、同五二年二月二八日それぞれ実施され、いずれの検査においても検知管から漏油が発見されなかつたのに、同五二年六月一〇日に実施された立入検査に至つて、初めて、検知管から漏油が発見され、加須地区消防組合本部からセンターに対し、漏油の原因を究明するよう命ずる危険物製造所等に係る基準適合措置命令が発せられたことが認められるのであつて、仮に前記原告本人の供述部分が信用に値するものとすれば、当初検出されていた油漏れがその後検出されなくなつたこととなり、きわめて不可解といわざるを得ず、結局右供述部分の信ぴょう性を肯認するまでの心証に達することができない。 <以下、省略>
(高山晨 小池信行 深見玲子)